巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ11作品を紹介
①受胎告知
レオナルド作品の特徴として、まず自然界に存在しないものは何ひとつ登場していないということ。神も精霊の鳩も、神秘的な光線もなく、象徴的な花々が咲く早春の野原の描写は植物観察の鋭いレオナルドの独壇場です。また右側の聖母マリアは腹部に黄金の布を巻き、同じ表現が「岩窟の聖母」にも見られることから、これはマリアの純潔を意味するレオナルド固有の記号とされています。加えて天使の栗色の巻毛の繊細な描写、「モナ・リザ」の背景にも似通った遠景のぼかし方など、画家20歳頃の才能あふれる傑作です。
②キリストの洗礼
③東方三博士の礼拝
レオナルドが、ヴェロッキオの工房から独立して制作した最初の大作です。彼は、しばしば作品を未完のままに残す習慣がありましたが、本作もそれに当てはまります。
この下書きには、おおよその構想がすべて描きこまれており、最も特徴的なのはその構図です。通常、聖母子は画面の脇に描かれ、礼拝する三博士が前面に行列のように併置されますが、レオナルドは、聖母子を画面の中心に、3人の博士をピラミッド型に下左右に配置しています。背景の幾何学的な建物はキリストの出現によって築かれる新しい世界を、廃虚と人馬は崩壊する旧世界、ユダヤ世界または律法なき異教の世界を意味します。右端には、若い騎士のような男性が立っていますが、この美しい若者はレオナルドの自画像とされています。
④岩窟の聖母
岩窟の閉ざされた空間は聖母の処女性を象徴しており、また初期作「受胎告知」同様、聖母の腹部には黄金の布が巻かれ、天使がそれを指さすことで、聖母の体内の純潔が強調されています。これらは依頼主である同心会が主張する無原罪受胎の思想を反映しているといえます。
スフマートや空気遠近法による描写、植物の緻密な表現、聖母を頂点とする三角形構図など、レオナルドの探求の集大成ともいえる作品です。
⑤白貂を抱く貴婦人
⑥最後の晩餐<修復前>(上)、<修復後>(下)
「この中に私を裏切る者がいるであろう」と言うイエスの言葉に驚く12人の弟子たちの動作をとらえており、遠近法の消失点、つまり天地の交わる点にイエスの頭があり、世界の中心に彼がいることを象徴しています。
本作はテンペラ技法(顔料に亜麻油や卵を混ぜたもの)で描かれていることなどから、レオナルドが生きていた頃より破損が始まっていました。およそ20年におよぶ科学的な修復作業が終了したのは、1999年。塵や汚れ、書き加えの筆が取り除かれた結果、レオナルドが描いたオリジナルの傑作に出会うことができたのです。大塚国際美術館では、修復前後を陶板で原寸大に再現し、比較鑑賞ができます。
⑦聖アンナと聖母子
1499年、レオナルドはミラノを去り18年ぶりにフィレンツェに帰郷しました。この作品は、そのときに描かれた「聖アンナと聖母子」の下絵です。レオナルドは、光の効果である陰影、反射、ハイライトを示す黒白の濃淡だけですべてが完璧に把握できるということを本作で示しました。この下絵自体、レオナルドが完成した新しい技法と視覚を完璧なかたちで示したとされ、油彩にはなりませんでした。キリストを眺める聖母は、慈愛にあふれたまなざし、ほほえみの表情で描かれています。
⑧モナ・リザ
レオナルドが最後まで手元に置き、手を加えていたとされる作品。女性像のモデルについては、フィレンツェの織物商人フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻リザであるという説が有力ですが、実在の人物の肖像ではないという説も唱えられています。レオナルドは、自然界に輪郭線はないと考え、輪郭線をはっきり描かずに周囲をぼかし、背景に溶け込ませるスフマート技法を用いて本作を描きました。背景の広大な景色には大地と川の生命を描いており、空気遠近法を用いて実在しない風景を表現しています。
⑨岩窟の聖母
第一作目と違いこの作品では、天使が聖母の腹部を指す身振りがなくなっており、これは伝統的な同心会が聖母の腹部を指し示すという直接的な身振りを忌避したためだと想定されます。また頭上の光輪や十字架、翼が追加されたことで、聖母マリア、イエス・キリスト、洗礼者ヨハネ、天使の区別がしやすくなり、陰影に富む二作目は聖母もイエスも少し大人びて感じられます。
大塚国際美術館では、2枚の「岩窟の聖母」を並べて展示しており、その違いを比較鑑賞することができます。