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開館10周年記念事業

ヴァティカンのシスティーナ礼拝堂の天井画と正面壁画「最後の審判」を再現したシスティーナ・ホール。
天井は「スパンドレル」と呼ばれる天井と壁を結ぶ部分や、微妙なカーブの三次曲面で構成されており、陶板で製作することは技術的に至難の業として、1998年の開館当時には再現できずにいました。

2007年、開館10周年を記念事業として、この三次曲面の再現に取り組みました。陶板を割らずに曲げることは非常に難しいものでしたが、ガラスなどが高温で溶けて曲がっていく原理を応用し、試行錯誤の末に実現。
2007年4月1日に一般公開し、ミケランジェロの偉業をさらなる迫力で体感していただけるようになりました。

システィーナ礼拝堂天井画完全再現の意味

ミケランジェロは教皇ユリウス二世の命を受け、1508年5月からわずか4年で、礼拝堂天井に大フレスコ画を描き上げた。その時この絵をみた美術史家のヴァザーリは、「この絵はわれわれの芸術を照らす光である。この絵は闇の中にあったこの世界を照らす光となった」と書いている。また文豪ゲーテは、「この天井をみれば、われわれ人間がどれほどのことができるかがわかる」と驚嘆した。現在でも世界中からこの天井を仰ぐために礼拝堂を訪ねる人の群はあとを断たない。

そこには旧約聖書の『創世記』に描かれた「天地創造」の壮大な場面がある。神は世界の最初の瞬間に現れて暗黒の中に光を与え、人類の男女を創造するが、人類は神の意思に背いて墜落し、神は人類に「ノアの大洪水」の刑罰を与える。それが天井中央の9場面であり、神と人類の壮大なドラマである。

しかし刑罰を与えた神は人間と契約を結び、二度と人類を滅ぼすことはないと約束する。ノアの子孫は地上に増え広がり、その弱さの故にさまざまな苦難に会う。それはユダヤ人の祖国喪失と流浪の運命である。苦難の民に向けて、偉大な預言者らは、やがて人類の救世主が現れて人々を罪から救済すると叫ぶ。それが天井画の両側面に描かれた巨大な「預言者」と「巫女」の姿である。この預言者の中にミケランジェロは自画像を描き、自己が時代を超えた預言者であることを示した。流浪の民は下辺の半月型と帆型の壁に描かれた「キリストの先祖たち」である。最後に、待ちに待ったキリストが、天井画の一番端の半月型壁に登場するのである。

ところが、複雑な曲面で構成された「スパンドレル」と呼ばれる、天井と壁を結ぶ部分や、微妙な反りを示す局面を陶板で模造することは、技術的に至難の技であり、そのような曲面上に描かれた「旧約の英雄たち」「キリストの先祖たち」そして、ミケランジェロの描いた最も偉大な人物像とされる「預言者と巫女たち」は大塚の礼拝堂には再現できなかったのである。開館して10年、日本にいながらにして世界の芸術を体験できる唯一の殿堂として大塚国際美術館は日々当初にまさる観客を集めており、なかでも原寸大の広大さを実感できるシスティーナ・ホールはこの館の中心的な空間となっている。
 
そうであるが故にこそ、今10周年を迎えるにあたって、大塚国際美術館、そして大塚オーミ陶業株式会社は技術的な総力をあげて、曲面を含むミケランジェロの偉業の完全再構成を行ったのである。開館10周年を祝うにあたって、天井壁画の全貌を全国から来る観客に提供できるようになったことを心から祝賀したい。

千葉大学名誉教授
大塚国際美術館 絵画選定委員
故・若桑みどり

 大塚国際美術館2代目館長 大塚明彦は、2007年3月31日、キリスト教の伝統を数多くの美術作品を通じ、日本国内で紹介し理解を深めた功績により、ローマ法王庁より聖シルベストロ騎士団長勲章を授与されました。

 
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