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【今月の1枚】サージェント、ジョン・シンガー 《ヴィッカーズ家の娘たち》
3人のくつろいだ様子の女性たち。19世紀の画家、サージェントが描いた肖像画です。
 
1856年アメリカ人の両親のもと、フィレンツェに生まれたサージェントは、各地に滞在しながら育ったこともあり、語学が堪能、温厚で礼儀正しく、ときに愉快な人物でした。
知性と教養があり、ユーモアにもあふれたサージェントは、アメリカやヨーロッパの上流階級を相手に肖像画家として絶大な人気がありました。
 
この作品はトマス・ヴィッカーズの3人の娘を描いたものです。
サージェントは「3人の若い不器量な娘たちを描くことになっている」と友人に手紙を書いています。ここに描かれた娘たちは特に不器量とも思えませんが、二人を一つにまとめ、残る一人を振り向かせるなど、堅苦しいポーズになりがちな肖像画の構図に変化を持たせるため、色々と悩んでの皮肉かもしれません。
 
 時にモデルが数時間とポーズをとらずに絵が完成することもあったというサージェントは、非常に筆の早い画家でした。その早い筆遣いで、滑らかな肌や衣服のひだを描き、その素材の違いまで表現している点に彼の技量が伺えます。
肖像画でありながら、くつろいだ雰囲気とそれにふさわしいメリハリの利いた構図は、ファッショナブルな肖像を扱い慣れたサージェントならではと言えます。
 
しかしながら、彼は晩年になると肖像画を描くことをやめてしまいます。
依頼主のご機嫌を取りながら描く仕事が嫌になり、「肖像画を描かない」と宣言します。こうした画家は、決して多くありません。
宣言後は「自分が満足できることに人生をささげる」と風景画や壁画装飾に打ち込みました。宣言後も彼に肖像画を描いてほしいと言う依頼は後を絶ちませんでしたが、彼が応えることはほとんどなかったそうです。

(文責:畑中 真弓 2017年6月) 

 
 
【今月の1枚】エッグ、オーガスタス・レオポルド《旅の道連れ》
 今月は「旅」をテーマに描いた作品をご紹介します。
 
 旅にあたる英語「travel(トラベル)」はフランス語の「travaille(嫌な、辛い事)」が語源になっていると言われています。今では「旅=楽しい」というイメージですが、昔は、ことわざにもある「旅は憂いもの辛いもの」、つまり旅先には知人や土地勘もなく心配が多い、と捉えられていたようです。
19世紀中頃になり、ロンドンでは旅行代理店がオープンしたり、パック・ツアーが売り出されたりと、楽しく心はずむ旅は、レジャーの中心的な存在になりました。
 
 その「旅の時代」の始まりを象徴するような作品が、今回ご紹介するオーガスタス・レオポルド・エッグが描いた
「旅の道連れ」です。
この作品は、イギリス人画家エッグが1862年に南フランスと北アフリカに、保養の旅にでかけた時の体験に基づいて描かれたそうです。当時、フランスのカンヌやニースといったリヴィエラ(地中海沿岸地方の名称)は、とりわけイギリス人に人気が高く多くの人が訪れていたそう。
 
 画面には二人の女性が狭い車内で向き合って腰をかけ、思い思いに過ごす様子が描かれています。列車の窓の外の明るい光景は、南フランスのマントンの風景。風光明媚な自然が見えていながら、二人とも美しい風景には無関心のようで、ひとりは熱心に本を読み、もうひとりの女性は長旅に疲れたのか、退屈なのか、眠り込んでいるようです。
 
 現代においてもこのような光景はよく見かけますし、自分自身が作品の女性と同じような過ごし方をしていることもしばしば。旅の概念は変わっても、このような光景はいつの時代も変わらないものですね。
(文責:山側 千紘  2017年5月) 
 
 
【今月の1枚】ブリューゲル、ピーテル(父)《子供の遊び》
ブリューゲル「バベルの塔」展の開催が東京と大阪で予定され、今年、注目を集めている画家の一人です。
16世紀フランドル絵画の巨匠ブリューゲルは、当時の学者や人文主義者たちが既知の事柄を全て収集し記録しておこうとしたように、彼自身も芸術分野において、それを実行しました。

この絵には、100人以上の子供と約90種類の遊びが至る所に描かれており、それが画面右奥まで続いています。
中央少し下、馬乗りになった子供が、輪になったひもを引っ張りあっている遊びは「騎馬戦」です。地面に引いた線より相手を手前に引きずりこむか、騎手を落とすことで勝敗を決定します。この場面では、地面に置いた2つの石を線代わりにしています。片方の馬は今にも線を超えそうですが、もう一方の騎手を見ると上体が崩れるほど引っ張られており、落ちそうな状態です。まさに決着がつく瞬間に見えます。
 
「騎馬戦」のすぐ上には「馬とび」、さらに少し左上に「結婚式ごっこ」、奥の家の玄関では指先にほうきを立てバランスをとる「棒立て」、その右の角では「竹馬」の遊びが描かれています。皆さんも子供の頃に経験のある遊びではないでしょうか。その他にも、椅子とりゲーム(王様の退位ごっこ)、お店やさんごっこなどの遊びもあります。
 
この作品では、子供の遊びの中に大人の社会の模倣を描き出し、逆に大人の世界も子供の遊びにすぎないという画家のメッセージが表現されています。
 
昔の懐かしい気持ちを思い出していただきながら、ブリューゲルならではの細密描写された「子供の遊び」をお楽しみ下さい。また、当館では4~7月イベント「ノスタルジー 懐かしいあの日に帰る美術館」を開催します。過ぎ去った時代、離れた故郷、教科書や旅先でみた思い出の絵など大塚国際美術館で記憶をたどり“あの日に帰る”旅に出かけませんか。

(文責:川崎 泰寛 2017年4月) 

 
 
【今月の1枚】ルノワール、オーギュスト《ピアノに向かう娘たち》
今月は、印象派を代表する画家の一人、ルノワールが描いた「ピアノに向かう娘たち」をご紹介いたします。
 
優しさが満ち溢れる豊かな暖色が使われており、娘たちの愛らしい表情やふんわりとした頭髪、洋服の質感や柔らかい肌が感じられるような描写によって、温かくゆったりとした雰囲気を味わうことができます。
 
二人の娘がピアノに向かう姿が描かれておりますが、一人は椅子に座って片手を鍵盤に置き、もう一方の手で楽譜をめくろうとしています。もう一人の娘は、右手を椅子の背に置きながら、寄り添うように楽譜を覗き込んでいます。二人の構図的な一体感と、心を一つにして弾くことや歌うことに集中している二人の精神的な一体感が作品の親しみやすさを盛り上げています。今にも少女の奏でる美しいピアノの音色が聴こえてきそうですね。
 
この作品は、フランス政府の非公式な注文に応じて制作され、ルノワールにとって、そして、印象派全体の作品の中で、初めて国家に買い上げられた作品だと言われています。かつてはリュクサンブール美術館に所蔵されていましたが、現在はオルセー美術館に所蔵されています。
 
幼い頃のルノワールは、サン・トゥスタッシュ教会の聖歌隊に入り、作曲家のシャルル・グノーが本格的に音楽の勉強をさせてはどうかと両親に勧めるほど、歌声が大変美しかったそうです。もしここで音楽の道に進んでいたとしたら、ピエール=オーギュスト・ルノワールという名前は、声楽家として知られることになっていたかもしれません。
 
彼の作品は、絵画に見られる柔らかな色彩の美しさと表現力の豊かさが魅力的です。またそれらは、彼の穏やかで友好的な性格や、人を愛し、また、人に愛された人生を物語っています。
 
ぜひ、お越しいただいた際には、ルノワールの心温まる作品17点をご鑑賞ください。
 
(文責:吉本 早希 2017年3月) 
 
 
 
【今月の1枚】ピカソ、パブロ《女=花(フランソワーズ)》
 
 「ギネスブック」に最も多作な芸術家として掲載されているピカソは、恋多き芸術家でもあった。 ピカソをめぐって数多くの女性が絵画作品の中に登場してくるが、その一人がこの作品のモデルとして 描かれた女性 フランソワーズ・ジロー。

ピカソ 62歳の時 、22歳の弁護士を目指していた絵を描くことが大好きな彼女と、とあるパリの レストランで偶然に出会う。知性と美貌の備わった彼女は、ピカソが今までに愛してきた マリー・テレーズやドラ・マールの魅力の全てを満たした女性だそうで、 「大きく見開いた緑色の瞳、高い鼻筋、小さな唇、そして、綺麗で大きな胸」にピカソは 我を忘れ夢中になっていると当時の友人が語っている。 ピカソはフランソワーズ・ジローを「君は動物には似ていない、成長する植物、花の女神(ミューズ)だ」と イメージして花と合体させてこの作品を描いた。

二人はおよそ10年の間、愛をはぐくみ この作品の翌年 1947年に息子 クロード・ピカソが誕生、 2年後の1949年に娘 パロマ・ピカソが誕生し二人の子供に恵まれた。

愛する女性をこれほどまでに「花のイメージ」に結びつけて表現した作品はこれをおいて他には 見当たらない。20世紀の天才画家 ピカソなのだ! 
 

(文責:岡村 修二 2017年2月)

 
【今月の1枚】モネ、クロード《カササギ》

 印象派を代表するフランスの画家、モネが描いた冬の風景「カササギ」をご紹介します。

 この作品は1869年頃の冬に北フランスノルマンディー地方のエトルタで描かれたと言われています。その頃のモネは経済的苦境のあまり前年に自殺未遂までしたほど苦しい状況でした。危機は何とか切り抜けましたが、相変わらず大変な生活苦でした。そんな状況をまったく感じさせない明るい冬の景色が描かれたこの作品は、凍てつくような冬の日にコートを3枚も着込み、雪にイーゼルを立てて描いたと言われています。

 題名の「カササギ」とは、画面左の柵にちょこんととまっている鳥のことです。場所は農場の一角でしょう、右には大きな納屋が見えます。

 しかし、この作品において最も見る者の視線を引き付けるのは、カササギでは無く、雪上にできた柵の青い影の美しさでしょう。冬の雪の日、影は青く見えるのでしょうか。雪が降った日には、当時のモネになった気持ちで見てみようと思います。


(文責 浅井智誉子 2017年1月)

 
 
【今月の1枚】ミレー、ジャン=フランソワ《羊飼いの少女》
赤い頭巾を被り、暖かそうなショールを身にまとった少女がひとり、羊の群れとともに描かれています。
ごつごつした木靴を履き、牧草を求めて歩いてきたのでしょう。
傾きかけた太陽は、もう帰路につく時を知らせています。
少女は、何か物思いにふけっているようにも見えますが、彼女は、寸暇を惜しみ編み物をしているのです。
羊たちはというと・・・。
忠実な牧羊犬が羊たちをまとめ、守ってくれています。
柔らかな黄金の光が、冬の大地や、のんびり草をはむ羊、可憐な少女を暖かく包んでいます。

貧しくはあるが、静かで平和な田園風景と、そこに生きる人と動物が、詩情豊かに描かれたミレーの代表作の一枚です。

ミレーは、34歳の時、フランスのパリから南東に60kmのバルビゾンの村に移り住みました。この地で、美術の教科書などでよく見る有名な「落ち穂拾い」や「晩鐘」を描いていますが、当時、それらの作品は高い評価は得られず、ミレーの画家としての成功のきっかけとなったのは、この「羊飼いの少女」といわれています。

農民たちの姿や田園風景を深い愛情を込めて描いたミレー、その作品の数々は、今なお世界中の多くの人々に愛され続けています。

この季節におすすめのこの一枚、是非、鑑賞にお越しください。
 

(文責:富浦 敦子 2016年12月) 

 
 
【今月の1枚】≪秘儀の間≫
 紅葉便りが各地で聞かれるシーズンとなりました。美術館の庭園の花壇ではケイトウの花が見頃を迎え、燃えるような鮮やかな朱色に染まっています。

 さて、イタリア・ポンペイにも朱色に彩られた部屋があります。今回ご紹介する「秘儀の間」です。
数多いポンペイ壁画のなかでも保存状態が良く、地の部分の辰砂を用いた鮮やかな「ポンペイ赤」によりとくに有名です。

この時代のポンペイでは城外の外にも郊外別荘と呼ばれる一戸建ての豪邸が建設されました。秘儀荘もその一つで、名称はディオニソス秘儀という神秘的な信仰の様子を描いた壁画に由来します。
向かって左側手前に若い女性が描かれていますが、その背後に隣室からの入口があるため、いまそこから女性が入ってきたような印象を受けます。この壁画に登場する人物はほぼ等身大の調和がとれた美しい姿で描かれており、卓越した技術をもった画家がいたことが伺いしれます。

 ポンペイは紀元79年8月24日のヴェスヴィオ山噴火によって、繁栄していたポンペイやエルコラーノ周辺の多くの豊かな都市が廃墟と化しました。のちに18世紀中ごろより発掘が進み、この場所は1909年の春に発掘されました。当初は約10mもの火山灰の下に埋もれていたそうです。
現地は1997年に世界遺産に登録され、当時のポンペイの様子をいまに伝える重要な場所です。

 大塚国際美術館には作品本体だけでなく、それが置かれ、飾られていた元の状況や建築的な環境を再現した「環境展示」は12を数えます。ポンペイの「秘儀の間」に入ることによって、現代にいながら古代ローマ人の感覚を追体験し、原寸大の迫力を実感いただければ幸いです。
 
 
(文責:土橋 加奈子 2016年11月) 
 
【今月の1枚】ゴッホ≪麦藁帽子の自画像≫
今月の1枚は、ゴッホの「麦藁帽子の自画像」をご紹介します。ゴッホといえば代表作「ヒマワリ」はもちろんのこと、その顔もよく知られる画家ではないでしょうか。ゴッホは、同じオランダの大画家レンブラントと同じく、多くの自画像を残しており、油彩だけでも40点近くあります。初期オランダ時代にも自画像を描いていますが、1886年春、パリに移ってからその数はにわかに増えており、30点近くにもなります。これだけ集中しているのは、オランダ時代のように身近なモデルが少なかったこと、プロのモデルは高くて頼めなかったことが伺えます。
 
「麦藁帽子の自画像」はゴッホ34歳の頃に描かれました。黄色い麦藁帽子からも想像できるように、ゴッホがパリで迎えた2度目の夏に描かれたもので、前年の春から夏に描かれたものに比べると、色彩は格段に明るく、タッチもきびきびと、生き生きとしています。おそらく当時パリで流行していた印象派の影響でしょう。しかしよくみると、帽子や顔、特に髭や髪を描くタッチは素早く、神経質にも見えます。パリ時代のゴッホは、大都会からよい刺激を受ける反面、都会の慌ただしいリズムや人間関係に神経を苛立てることも少なくなかったようです。鼻の下や耳に点じられた、実際にはない赤色は、この後、耳切り事件を起こすアルルや発作に悩まされたサン・レミ時代を予告しているのかもしれません。
 
当館では、パリ時代の「麦藁帽子の自画像」の下に、背景がぐるぐると渦を巻いたサン・レミ時代の「自画像」も展示しており、比較鑑賞が可能となっています。芸術の秋、“炎の人”と称されるゴッホの自画像に表された、画家の人生と心象に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
 
(文責:富澤 京子 2016年10月) 
 
【今月の1枚】ボス、ヒエロニムス《手品師》
ボスが描いたこの作品に、近づいてよくご覧ください。
 
テーブルを挟んで右に“手品師”、左には‘見物人’や‘客’がいます。
鼻の尖った山高帽をかぶった‘手品師’は、その風貌からしていかにもうさん臭い感じがします。手品師は、小さな玉を取り上げて奇術を披露しているようです。腰に吊るしたかごの中にはふくろうが見えますが、このふくろうは、まやかしの象徴です。そう、実際にはこの手品師は、詐欺師なのです。彼の足もとには、めかし込んだ犬が輪を使った曲芸の出番を待っているようです。左の‘見物人’は総勢10人ですが、その中でも一番目立っているのが、前かがみになった老人。老人のびっくり仰天な顔からは、この詐欺師にすっかり乗せられてしまっています。その様子を、子供がおもしろがって見ていて、老人の後ろでは詐欺師のグルなのでしょうか、とぼけた顔の男が慣れた手つきで老人の財布を盗み取ろうとしています。しかし、手品に熱中している老人はそのことには全く気付いていません。登場人物の心の中までも読み取れるひとりひとりのユーモラスな表情にも注目です。
この1枚の絵の中には、‘だます者’と‘だまされる者’、これを‘面白がって見ている者’と、400年以上も昔のこととは思えない現代の私たちにも身につまされる“世間の縮図”が描かれているのです。
 
ボスの師弟関係や影響関係など、彼の生涯についてはほとんど知られていませんが、とても印象深く、独創的な画家です。目を凝らして見たくなるボスの世界観にわたしは魅了されるのです。
 
(文責:松浦 奈津子 2016年9月) 
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